|
固体高分子形燃料電池(こたいこうぶんしがたねんりょうでんち、polymer electrolyte fuel cell、PEFC)は、イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)を電解質として用いる燃料電池である。これまで様々な呼称があり、初期はプロトン交換膜燃料電池(proton exchange membrane fuel cell, PEMFC)とも呼ばれていたが、1992年に当時の通商産業省がニューサンシャイン計画を導入する際、米国における学術的呼称である"polymer electrolyte fuel cell"の邦訳として「固体高分子型燃料電池」という語を用いるようになってから、次第にPEFCという略称とともに呼称が定着するようになってきた。JISにおける標準用語を燃料電池に対して制定された際、タイプをしめす言葉として形が用いられていることから、このタイプの燃料電池のことを「固体高分子形燃料電池」と定められ、定着した。 == 構造と原理 == 固体高分子形燃料電池の基本構造は、燃料極(負極)、固体高分子膜(電解質)、空気極(正極)を貼り合わせて一体化した膜/電極接合体 (Membrane Electrode Assembly, MEA) と呼ばれる基本部品を、反応ガスの供給流路が彫り込まれたバイポーラプレート (bipolar plate) と呼ばれる導電板で挟みこんで1つの基本単位を構成し、これを特に単セル (single cell) と呼ぶ。単セルでは運転時に約0.7Vの電圧を発生する。この単セルを積層して直列接続し高電圧を得られるようにした物をセルスタック (fuel cell stack) と呼ぶ。 燃料極(負極)では、水素やメタノールなどの燃料が供給され、H2 → 2H+ + 2e-(メタノールを用いた場合はCH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e-)の反応によって、プロトン(水素イオン、H+)と電子に分解する。この後、プロトンは電解質膜内を、電子は導線内を通って、空気極へと移動する。 一般に、カーボンブラック担体上に白金触媒、あるいはルテニウム-白金合金触媒を担持したものが用いられる。 固体高分子膜(電解質)は、燃料極で生成したプロトンを空気極へと移動する働きを持つ。当初はスルホ系イオン交換樹脂がジェミニ宇宙船に搭載されたが、現在では、プロトン伝導性の高さと安定性から、主にナフィオン(Nafion、アメリカのデュポン社の商標)などのスルホン酸基を持ったフッ素系ポリマーが用いられていることが多い。日本産のフッ素膜も用いられることが多く、旭硝子 (Flemion) 、旭化成 (Aciplex) 等が知られる。この膜中において、プロトンは水和されてスルホン酸基上を移動する。したがって、膜中の水分が燃料極から空気極へと移動することになる。このままでは燃料極側では水分が徐々に失われてしまうので、燃料には水分を含ませる必要がある。この「水を使用する」という条件から、この系は0℃以下、または100℃以上での使用が困難であるというのが欠点である。そのため、無加湿・中高温条件において使用可能な高分子膜の開発が急務である。 また、燃料としてメタノールを用いる場合は、メタノールが電解質膜を透過してしまう「クロスオーバー現象」が発生する。クロスオーバーの結果、メタノールは空気極でも反応してしまい、起電力を大きく低下させる。特に、出力密度を向上させるためメタノール濃度を高くするとクロスオーバーは顕著となる。最近ではこのクロスオーバーを抑制するために、多孔性ポリイミドやプロトン伝導ガラスを利用する方法などが研究されている。 空気極(正極)では、電解質膜から来たプロトンと、導線から来た電子が空気中の酸素と反応して、4H+ + O2 + 4e- → 2H2Oの反応により水を生成する。が、実際はこの「酸素4電子還元」反応の効率はきわめて悪く、起電力を下げる原因になっている。 一般に、カーボンブラック担体上に白金触媒を担持したものが用いられる。 以上の反応から、理論上は約1.2Vの電圧が得られるが、電極反応の損失があるため実際に得られる電圧は約0.7Vとなる。また、燃料効率や寿命、触媒である白金が高価かつ希少であるなど改善すべき課題はきわめて多い。なお、自動車用燃料電池では1台あたり100g以上の白金が必要と言われ、資源的制約が厳しい上、車1台1億円程度のコストがかかると言われている。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「固体高分子形燃料電池」の詳細全文を読む 英語版ウィキペディアに対照対訳語「 Proton exchange membrane fuel cell 」があります。 スポンサード リンク
|